現在「白色LED」と呼ばれているLEDは、実際に白色光を発しているのではない。赤色・青色・緑色(RGB)LEDの光の組み合わせや、青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせによって白色光を作り出している。米University of Utah(ユタ大学)の研究チームは、ポリマー半導体の発光色を調整する方法を発見した。同研究チームは、本物の白色光を発する有機発光ダイオード(OLED:Organic Light Emitting Diode)の実現を目指している。
■プラチナの挿入の調整で、あらゆる波長を作り出す
同技術は、有機半導体のポリマー結合にプラチナ原子を挿入する。University of UtahのZ.Valy Vardeny教授は、EE Timesの電話インタビューに対して、「合成プロセスを使って、ポリマー結合にプラチナ原子を挿入した。プラチナ原子の間隔を変えることで、発光色を調整できる」と説明した。同研究チームでは、プラチナ原子を異なった間隔で挿入したポリマーを作成し、それらをまとめることで、1つの材料から白色光を作り出すことを目標としている。
プラチナを豊富に挿入したポリマーは、RGB LEDのように蛍光を発するだけでなく、蛍光体で覆ったLEDのようにリン光も発するため、従来のOLEDと比べてエネルギー効率を大幅に高められるいう。
Vardeny氏は、「現在のOLEDは蛍光エネルギーを発するが、光に変換されるのはのうちの約25%だけだ。一方、われわれが開発したプラチナポリマーはリン光も発するため、残りの75%の電気エネルギーを利用してさらに光を発生させることができる」と説明している。
■“真の白色LED”には「約1年かかる」
同研究チームでは次の段階として、ポリマー結合内にプラチナ原子を異なった間隔で挿入する実験や、プラチナ以外の重分子を使った実験を行っており、これまでに2種類の材料を作製したという。1つは、ポリマー結合の全ての結合部にプラチナ原子を挿入したもので、紫色と黄色に発光する。もう1つは、プラチナ原子を3結合ごとに挿入したもので、青色とオレンジ色に発光する。研究チームは、ポリマーにプラチナ原子を異なった間隔で挿入すれば、白色光の実現に必要な全ての波長を作り出せると期待している。
Vardeny氏は、「最終的な目標は、白色光を作り出すことだ。残念ながら、白色光は明確には定義されていない。しかし、われわれはなんとしても、全ての色を作り出したいと考えている」と述べた。
現在のプラチナポリマーを発光させるには、光の刺激が必要である。しかし、白色光ポリマーの仕様が定義されれば、電気刺激に反応して発光するOLED材料を作製する予定だという。研究チームでは、白色発光ポリマーと他の2種類の材料を完成させてOLEDにするには、「約1年かかる」と見積もっている。
■メモリや太陽電池にも応用可能
研究チームは、新型太陽電池を作製する技術を適用することも計画しているという。また、プラチナポリマーは、電子を回転させて情報を格納できるため、新しいタイプのメモリチップを生み出せる可能性もあるという。
この研究の詳細資料は、Scientific Reportsから無料でダウンロード(英語)できる。
この研究は、米エネルギー省(DoE:Department of Energy)、米国立科学財団(NSF:National Science Foundation)、中国国家科学基金委員会(NSFC:National Science Foundation of China)、中国主要大学向け基礎研究基金(China’s Fundamental Research Funds for the Central Universities)から資金提供を受け、ロスアラモス国立研究所(Los Alamos National Laboratory)の科学者であるSergei Tretiak氏、University of Utahの博士課程を修了した研究者のChuanxiang Sheng氏(現在は中国のNanjing University of Science and Technologyに所属)、University of Utahの博士号取得候補者のSanjeev Singh氏とAlessio Gambetta氏、 Tomer Drori氏、 Minghong Tong氏の協力の下で実施されている。なお、プラチナポリマーの合成は、化学者のLeonard Wojcik氏が行ったという。