東北大との共同研究で新しい蛍光体とその製造技術を開発
~白色LED 用蛍光体の開発を加速~
住友金属鉱山株式会社(東京都港区、代表取締役社長 家守伸正)は、国立大学法人東北大学
(宮城県仙台市、総長井上明久、以下「東北大学」)多元物質科学研究所(所長:河村純一教授)垣
花眞人教授の研究グループとの共同研究により、近紫外光または青色光を照射することによって
青緑~黄色に光る高輝度なシリケート蛍光体(注1)とその新しい製造方法の開発に成功しました。
本研究で開発した高輝度蛍光体は高効率白色LED(注2)への応用が期待されます。
白色LEDは液晶テレビジョンや携帯電話の液晶パネルのバックライト光源に使われています。既
に白熱電灯への置き換えが進みつつあり、急激な市場の拡大が期待されています。今後、蛍光灯
への代替など、白色LEDのより多種多様な光源への利用を進めていくためには、高い発光効率を
有し、自然な色合いを表現できる、より安価な新規蛍光体が求められています。
本研究では、290nm(nano meter)から420nm の近紫外光をあてると青緑色(480nm)に発光する、ユ
ーロピウムを添加したバリウム-ジルコニウム-シリコン酸化物蛍光体((Ba,Eu)ZrSi3O9)の開発にはじ
めて成功しました。405nm の光を照射した時の内部量子効率(注3)は、67%に達しています。今後
更に効率化を進め、近紫外LEDとの組み合わせにより高効率な白色LEDへの応用が期待できま
す。
また、青色を黄色に変換する高輝度の蛍光体((Sr,Ba,Eu)2SiO4)の開発に成功し、 従来の黄色蛍
光体(YAG:Ce)に比べて約1.5 倍の蛍光強度(励起波長:445nm、発光波長:563nm)を達成しまし
た。これにより、より高輝度な白色LEDの開発が可能となりました。
さらに、本研究は、本研究に先立ち垣花研究室が独自に開発した水溶性ケイ素化合物(WSS、注
4)を用いたプロセスをその製造に用いる点で画期的なものです。従来法では、蛍光体は固体の原
料粉末を機械的に混合し、加熱焼成していましたが、新製法では液体の原料を用いるため、原子
レベルで均一に混合させることができます。またWSSを用いることにより、数多くの組成の材料合
成を一度に行える“並列合成法”(注5)が可能となり、蛍光体組成の最適化や新たな蛍光体の探
索を効率よく行うことができるようになりました。((Ba,Eu)ZrSi3O9)の開発は、この並列合成法を用い
たものです。今後も新製法の活用により、高輝度蛍光体の開発が加速されることが期待できます。
当社ではこれらの蛍光体の耐湿性と光学特性を更に向上するため、蛍光体の表面を緻密な膜で
被覆する技術の開発を行っております。すでに本研究成果をベースに量産技術確立に向けた試
験を実施中であり、近い将来、低コストで輝度の高い白色LED用蛍光体を新製品として市場に提
供して行く予定です。
なお、本研究の内容については、新学術領域:融合マテリアルプロジェクトにおいて重要な基幹材
料として位置づけられ、公開シンポジウム(2011 年1月22 日 東京大学、武田先端知ビル、ホーム
ページ:http://fusion-materials.t.u-tokyo.ac.jp/)にてWSS のゲル化能に関する研究成果が発表
される予定です。あわせて、東北大学ウェブサイトもご覧ください。
当社は、2003 年から東北大学多元物質科学研究所と包括共同研究開発を行っており、さらにこれ
を発展させ、相互の協力関係を強化するため、2010 年6月に東北大学と連携協力協定を締結しま
した。今回の技術開発は、この包括共同研究開発および連携協力協定による研究開発のひとつ
が具体的な成果に結びついたものです。
当社は、今後とも東北大学と連携協力協定に基づく共同研究を一層推進してまいります。
(用語説明)
(注1)蛍光体:光エネルギーを吸収すると、吸収した光よりも長い波長の光を発する機能性材
料のこと。蛍光灯や白色LED、およびプラズマディスプレイなどで使用されている。シリケート
蛍光体とは構成元素にシリコン(Si)を含む蛍光体のこと。
(注2)白色LEDの構造:LEDチップからは、青色(約455nm)光と、青色光が蛍光体によっ
て変換された黄色の光が出る。青色と黄色は補色の関係にあるため交じり合って白色に見え
る。
(注3)内部量子効率:蛍光体に吸収された光子数のうち、発光として取り出す光子数の割合
のこと。
(注4)水溶性ケイ素化合物(WSS):プロピレングリコールなどをシリコン原子に結合させたもの
で、水に溶解しても安定に存在する化合物である。これまでSiを含む化合物で水に溶かして
安定に存在するものは見つかっていなかった。この化合物は、垣花研究室で独自に開発され
た。
(注5)並列合成法:数十種類の試料を同じ条件で一度に合成する手法のこと。水溶性の原料
を使うことで、複数の原料の採取・混合を簡便に行うことができる。
(本件に関するお問い合わせ先)
住友金属鉱山株式会社
広報IR 部 高橋 雅史(TEL:03-3436-7705)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 垣花眞人(TEL:022-217-5651 email: kakihana@tagen.tohoku.ac.jp )